27歳・手放したはずの恋が、胸に残っていた【前編】
—「別れて正解だった」と言い聞かせていた—
別れた直後は、正直ほっとしていた。
「わがまま」
「依存されるのがつらい」
口にした言葉は、嘘じゃない。
彼女は、俺が世界の中心みたいに生きていた。
好きだった。
でも、重かった。
だから別れを切り出した。
初めての彼氏だった彼女の泣き顔を見ないようにして。
——これでいい。
俺はそう思っていた。
⸻
最初の1週間は、静かだった。
スマホが鳴らない。
「今どこ?」も、「声聞きたい」もない。
自由____そのはずだった。
でも、夜になると妙に落ち着かなかった。
仕事が終わっても、
誰かに「おつかれ」って言われない。
(こんなに、部屋って静かだったっけ)
⸻
2週間目。
ふと、彼女のSNSを開いてしまった。
更新は、少ない。
でも——暗くもなかった。
カフェの写真。
夕焼け。
短い一言。
「今日は、ちゃんと一人で大丈夫だった」
……なんだよ、それ。
心が、ちくっとした。
⸻
俺は、自分に言い聞かせた。
「彼女のためにも、別れてよかった」
「あのままじゃ、お互いダメだった」
それでも、帰り道で似た後ろ姿を見るたびに、
一瞬、足が止まった。
⸻
3週間目。
気づいたら、彼女の名前を検索する回数が減っていた。
代わりに増えたのは、
彼女といた頃の記憶だった。
笑い方。
拗ねたときの沈黙。
眠そうな声。
(あれ……俺、ちゃんと向き合ってたか?)
“依存されてつらい”
その前に——
俺は、受け取る覚悟がなかっただけじゃないか?
⸻
一カ月目の夜。
スマホを握ったまま、10分迷った。
——元気?
それだけの文字を打つのに、
心臓がやけにうるさかった。
(返ってこなかったら、それはそれで…)
送信。
⸻
既読。
少し間があって、返事が来た。
「元気だよ。そっちは?」
その一文がなぜか昔より、遠くて、落ち着いて見えた。
(……あれ?)
彼女、変わった?
(続く)



